フィル・エ・ビジュー

譲り受けた想いと素材で、手にしたことのない“モノ”を編み出す

ビーズと刺繍糸――どこにでもある素材を使い、どこにもないアクセサリーを生み出す「Fil et bijou(フィル・エ・ビジュー)」。デザイナーの藏藤(くらふじ)春菜さんが、この2つの素材と出会ったのは、偶然であり、必然だった

「私は幼い頃、極度の遠視でした。その矯正のために、お医者さんから、『ビーズと糸』でネックレスなどを作る“ビーズ細工”を勧められたんです」

6歳の頃からずっと、視力矯正を目的に、ビーズの穴に糸を通し、遊びながら小物を作っていた。そこに祖母が小学生のときにくれた、カラフルな刺繍糸が加わった。

「祖母は刺繍が趣味で、持っていた和ダンスの中には、刺繍糸がたくさん敷き詰められていました。それを私が受け継いだんです」

しかし藏藤さんの祖母は、彼女にモノづくりの方法を教えることはしなかった。

「祖母だけでなく、今日まで誰かに教わったことは一度もありません」

だが、我流で糸を紡いでいる内に、独自の技法を生み出した。それが、糸とガラスビーズを3点で留めつける「みすみ編み」だ。

「みすみ編み」で作ったアクセサリーは、構造的に強い三角形を組み合わせるため、ビーズと糸でできているとは思えないほどの強度になる。その耐久性は高く、洗っても壊れないほどだ。ちなみに、「みすみ編み」のみすみ、とは、「三角」という意味。彼女独自の技法を見事に表している名前で、今年の1月に商標登録も取得した。

「その技法の原型が生まれたのは、中学3年生の頃です。受験勉強も終わり、暇を持て余していたので、ビーズと刺繍糸で遊んでいる内に、自然とたどり着きました」

ただ当時、彼女にとってそれは趣味の範疇であり、アクセサリーデザイナーになりたいと考えていたわけではなかった。

「高校卒業後は、両親の勧めで、管理栄養士の資格を取るために、大学に進学しました。在学中も、アンティークのビーズを使ってアクセサリーを作っていましたが、自分の中では“大好きな趣味”という感覚でした」

大学を卒業すると、管理栄養士として4年ほど勤めた。

「仕事は満足でした。ただ、人生の中で『失敗できる年齢』というのがあるとすれば、それは20代なのかもしれないと思ったんです。だったら一度きりの人生、自分がいちばん大好きなものにチャレンジしてみようと、思いきって退社を決断しました」

東京にいる友人が声を掛けてくれたこともあり、退社後は、東京に移住した。

「親には「東京で栄養士として働く」と嘘をついて、上京しました。でも、私には誰にもできない技術(みすみ編み)がある。実績はなくとも何とかなると、根拠のない自信だけはありました」

東京に移って2ヶ月ほど経った頃、「Fil et bijou」を立ち上げた。

「そんな折、東京にいた親戚が、ジュエリー作家の方を紹介してくれたんです。その方と話をしていたら、「百貨店の催事があるから販売を手伝って欲しい」と言われ、勉強も兼ねてお受けすることにしました」

彼女いわく、「その方の作品と私のキャラクターが乖離していたから目立った」そうで、百貨店のバイヤーが彼女に話し掛けてきた。すると、そのバイヤーは彼女の思いに共感し、アクセサリーの展示会へと連れて行ってくれた。

「会場に行くと、またそこで人と知り合うわけです。イベントの出展の仕方から価格設定の決め方まで、さまざまな人との出会いの中で、多くのことを学んでいきました」

とはいえ、順風満帆だったわけではない。立ち上げ直後には、自信があったはずの作品に欠陥も見つかった。

「現在は、糸もビーズも特注のものをメインに使用しているのですが、最初の頃は既製品を使っていたこともあり、耐久性が低い、という問題があったんです」

いくら「みすみ編み」の技法が優れていても、素材が弱くては、三角形が作り出す強度を活かすことはできない。そこで糸もビーズも特注し、イチから作ることにした。そうして試行錯誤を繰り返していく内に、耐久性も改良され、独創的な彼女の作品に、ファンも少しずつ増えていった。

「Fil et bijouのお客様は、リピーターの方が非常に多いんです」

それは、ここでしか買えないものがある証拠でもある。

「みすみ編みのワークショップも開催しているのですが、はまる方が多いですね。ビーズにはきっと、中毒性があるんですよ。この小さなビーズから何でも作れちゃいますから。いまも絨毯を作ろうと、準備を進めているところです」

ちなみに、刺繍糸はもらうこともあるそうで、「切れ端でも捨てられない」と彼女は語る。それはそこに込められた思いまで、彼女が引き継いでいるからだろう。そんな彼女は現在まで、「作りたいものを作り続けてきた」と言う。

「2016年からは、長野県にアトリエ兼ショップを構え、作品作りをしています。こっちに来てからは、東京にいた頃よりも、落ち着いてアクセサリー作りができているのがうれしいです。それに、とても居心地がいいですね」

小学生の頃、祖母のくれた刺繍糸には、愛が詰まっていた。その想いも彼女は受け継いだのだろう。彼女が作る作品には、どれも温もりが感じられる。そんな彼女の作るアクセサリーだからこそ、誰からも愛され、素材以上の輝きを放っているように感じられるのだ。

Profile
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デザイナー・藏藤春菜が生み出した独自の技法「みすみ編み」により、制作するアクセサリーブランド。幼少期から、祖母から受け継いだ刺繍糸を使い、ビーズを用いたアクセサリー制作を趣味として始める。2011年、「京都・百万遍手づくり市」への出展を機に本格的な制作をスタート。2014年、拠点を東京に移しブランド「Fil et bijou(登録商標)」を設立。2016年より、長野県長野市にアトリエを構え、“場から生み出す”ものづくりを目指し、日々、作品を生み出し続けている。

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