MASAMI TANAKA

辿りついた“主張しない美しさ”

「革に出会った瞬間から、僕の人生は輝き始めました」

『MASAMI TANAKA』の代表であり、デザイナーの田中将実さんはそう語る。それは彼にとって、人生を変えるほど衝撃的な出会いだった。

「10代の頃の自分はやりたいこともなく、ダラダラと生きていました。職業はフリーター。このまま成人していいのかと、悩む日々でした」

ただぼんやりと、「会社に属して働くよりも、ひとつのことを極めたい」という思いはあった。小さい頃からモノ作りが得意で、小学校時代には賞を受賞したこともある。その成功体験を活かしたい、という気持ちもあった。

「そこで20歳のとき、シルバーアクセサリーを学ぶことにしたんです。モノ作りの学校に通い、卒業後は、シルバー系のアクセサリーブランドで修行していました」

そんなある日、同ブランドが扱う革製品に出会った。その瞬間、田中さんは革製品の“奥深さ”を感じ、魅了された。以来、「革製品を追求したい」という気持ちはふくらみ続け、退社を決意する。

「まだ若かったので、「とりあえずブランドを立ち上げれば何とかなるだろう」と思っていました。ですが、現実は甘くありませんでした」

実績もノウハウもない若者に、仕事はなかった。それでも革製品への思いは消えることなく、アルバイトをしながら細々とオリジナルの革製品を作り続けた。

「このままでは自分の描く理想の革職人には到底辿り着かないと思い、革の歴史や技術を学ぶために、イタリアのフィレンツェに行くことにしたんです」

フィレンツェは、いわば“革の聖地”だ。「そこに行けば、きっと何か得られる」。真っすぐな熱意と勢いだけを胸に、ツテも知識もないまま、田中さんは日本を発った。

現地では、世界最大級の革の見本市に足を運んだ。するとそこで、偶然フィレンツェ在住の日本人コーディネーターと知り合い、自分の想いと展望を伝えると、工房を紹介してもらえることになった。

「訪れたアトリエには、これまで見たこともないような素晴らしい素材と職人の技が融合した革製品がありました」

その美しさに感銘を受けた田中さんは、自分の作品を見せ、「ここで学ばせて欲しい」と懇願した。

「すると、熱意が伝わったのか、「明日からおいで」と言ってくれたんです」“本物の革製品”に囲まれる毎日は、田中さんにとって幸せなものだった。すべての工程のレベルが高く、驚きの連続だった。作業を続けていく中で、これまで持っていなかった技能も身につけた。イタリア行きの収穫は想像以上のものとなった。

「帰国時期が迫った頃、友人が東京でセレクトショップを出すにあたり、僕をデザイナー兼クラフトマンとして誘ってくれました。帰国後はその店を手伝うことにしました」

代官山にオープンしたショップでは、オリジナル製品のデザインから縫製、仕上げまでを担当。さらにそこでオーダーメイドの注文も受けた。

「お店自体が順調だったこともあり、財布にクラッチバッグ、スマートフォンケースなど、僕の作った商品もよく売れていました。ですが3年が経過した頃、『自分が心からいいと思うものを作り、発信したい』という思いが強くなり、ショップを離れることにしました」

こうして2015年、革製品のブランド「MASAMI TANAKA」が誕生した。

「自分が純粋に恰好いいと思うものだけを届けたいと思っています。ですから、立ち上げた2015年は、ひたすら試行錯誤を繰り返し、自分の目指す“カタチ”を表現することだけに集中していました」

目指したのは、フィレンツェで出会ったあの衝撃だ。シンプルなデザインでありながら、気品が漂い、機能美に優れたプロダクト。あの感動を今度は自分が誰かに届けたいと考えている。

「革の質が上質だと、使っている人も上品に見えますよね。それに素材のいい革を使えば、長く使えますし、エイジングによって味も出てきます」

デザインから縫製までのすべての工程を、ひとりで手掛けているのも、「MASAMI TANAKA」のこだわりだ。

「その過程で、ひとつひとつ丁寧に、“主張しない美しさ”を作り上げています」

主役は製品であって、ブランドではない。そう考える田中さんはブランドロゴもさりげなく入れる程度にしている。クラッチバッグに関しては、通常の状態ではロゴが隠れ、開けたときにだけ見えるようになっている。こうして細部にまで徹底してこだわることで、田中流の“美しさ”は具現化される。

「商品はすべて、完成したサンプルを実際に使用し、日々使っていく中で問題点を洗い出します。その課題を解決したら、再度使用します。そこで新たに問題点が見つかれば、また手を加えます。この工程を繰り返し、自分の中で『欠点がなくなった』と感じた時点で初めて商品化しています。そこまで徹底することで初めて、お客様の満足や笑顔につながると思うんです。これはモノ作りを生業にしている以上、最低限の責任だと考えています」

いまできる100%を常に注いでいると語る田中さんのモノ作りは、どこまでも真摯だ。そして本人もまた、頑固すぎるくらいのこだわりを持ち、革と誠実に向き合っている。だから「MASAMI TANAKA」の製品はどれも、洗練されていて、長く愛用できる“カタチ”になっている。

「革製品は、動物の命をいただいてできています。より美しく製品として仕上げ、世の中に蘇らせることで、その責任を僕なりに果たしたいと思っています。さらに使っていただく方々にも、ご自分の大切なパートナーとして、MASAMI TANAKAの製品をご愛用いただけたら、こんなにうれしいことはないですね」

当然のことながら、「MASAMI TANAKA」の本当の魅力は、実際に使った人しか味わうことができない。きっと手に取れば、かつての田中と同じように、 “主張しない美しさ”に魅了されるに違いない。

Profile
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田中将実がデザインから縫製まで手作業で作り上げる“革”に特化したブランド。イタリア・フィレンツェに渡り現地のアトリエでものづくりを学び、帰国後セレクトショップのクリエーションに携わり作品を展開。10年のキャリアを経て『MASAMI TANAKA』をスタート。デザイン・パターン・縫製すべての技術を屈指し、革小物をはじめとする家具のリプロダクトやカスタムワーク・コラボレーションなど『革』の魅力を活かした作品を幅広く手掛ける。

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