HIS-FACTORY

“効率”よりも“こだわり”を優先したモノ作り

東京の隅田川に、まるで浮かぶようにかかる赤色の吾妻橋。そのほとりの工房で、細部までこだわりぬいた革製品を作り続けるHIS-FACTORY(ヒズ ファクトリー)。そこには「自らが職人だからこそ」の理由があると、中野克彦さんは語る。

「私は過去に、大手ブランドの大量生産に関わっていた時期があります。そこでは生産管理の仕事をしていました。その頃は、すべて同じ、均一的なものを作ることが、最も重要なことでしたし、私自身もそう考えていました。しかしそこで見た、“業務の効率化”や“コスト削減”を優先するモノ作りに対して、次第に私は、疑問を抱くようになりました」

コストを下げるために、生産拠点は日本から海外に移った。加工賃金は下落し、日本国内の職人は減少傾向に。そうした状況を前に、「このままでは、日本に職人がいなくなってしまう」と中野さんは危惧した。伝統や技術が過去の遺産になることは、大きな損失だ。

「ならばと、『自分も職人のひとりとして、自分が納得できるモノ作りをしよう』と考えるようになりました」

大量生産への疑問から始まったモノ作りは、こだわりの詰まった「一点もののモノ作り」へとつながった。中野さんは作り手の目線でデザインを考案し、使い勝手や耐久性を追求し続けている。そんな中野さんが作る鞄のコンセプトは、「クラシックで丈夫」だ。トレンドに左右されないデザインと、長く愛用できる耐久性を持ち合わせた鞄は、「使うほどに愛着が湧く」と評判だ。

「いいモノを作るためには、素材にもこだわる必要があります。私はあるとき、イタリアで千年もの歴史を持つ“バケッタ製法”で製造された革に出会いました。この製法は、すべての工程を手作業で行います。手間ひまを惜しまず、職人たちが丹誠を込めて作り上げたその風合いの素晴らしさに、すぐに私は夢中になりました」

中野さんが「まるで違う」と語るこの革は、裁断したときの刃通りの滑らかさはもちろん、色の鮮やかさ、経年変化による色艶、耐久性なども見事なものだった。

「これこそが“革らしい革”だと確信しました。それからは、この革に込められた想いに、応えられる鞄を作りたいと思うようになりました」

鞄の金具には真鍮(しんちゅう)を使用する。これも中野さんのこだわりのひとつだ。

「ゴールドのメッキとは違い、淡くやわらかな黄色光沢は、年輪を重ねるたびに美しい色合いに変化していきます。これは“バケッタ製法”の革と同様に、使い続けることで味が出て、アンティークのような印象に変化します。その、モノが育っていく感覚は、「いいモノ」でしか感じられない喜びですし、きっと愛着を持ってもらえると思います」

細部に至るまで、自分の目で、手で確かめて、モノに命を吹き込んでいくのが中野さんの流儀だ。

「“バケッタ製法”の革は、使い続けることでさらに味わいが出てきます。これは経年変化(エイジング)と呼ばれるものです。そこには、深みと美しさがあります。また使う人によって、使い方によっても、どんな変化をするかは異なります」

HIS-FACTORYの製品は、どれも「思わず使い続けたくなる」魅力あふれるものばかりだ。そこには、「大量生産」や「消費」とは、真逆の思いが込められている。

「長く使える『ホンモノの素晴らしさ』を、多くの人に届けたいんです」

その不器用ともいえる実直なモノ作りへの愛情は、クオリティとして製品からも感じることができるはずだ。

Profile
Brand

隅田川にかかる吾妻橋のほとりで、1Fの工房、2Fのショップの工房ショップで革製品を製作販売している「HIS-FACTORY」。同社の代表であり、職人の中野克彦がデザインから縫製までを一貫して行う。使う素材は、中野が「惚れ込んだ」というイタリアの上質な革を中心に使い、じっくりと手間と時間をかけ、丈夫で長く使えるクラシックなデザインの革製品を製作し続けている。

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