にじゆら

注染という染め方に込めた、手ぬぐいの未来

―「にじゆら」について、その成り立ちを教えていただけますか?

「にじゆらの母体である株式会社ナカニは、大阪の堺に本社を構える染色の工場(こうば)です。各社から染め物のオーダーをいただいて、染色することをメインの生業としていた委託加工の会社でした。染め方にはいろいろな方法があるのですが、「注染(ちゅうせん)」と呼ばれる染めの技法を使っています。現在の代表が先代より跡を継ぐタイミングで、「このまま委託加工だけ続けていると、技術の進歩がなく職人のモチベーションも保ち続けられない」と考えました。そこで考えた結果、「自社のオリジナルブランドを作るしかない」となり、約11年前に現在の『にじゆら』が誕生することになります」

―にじゆらが出来た当初、どんなことを意識して製作されていましたか?

「もともと手ぬぐいは日本の昔からの文様を表した古典的なものが多く、色使いも一色や二色がほとんどです。それに、「にじむ」ということは、染め物の世界ではネガティブなことでした。ただ、「注染」自体の仕組みを考えると、隣同士に色が来るとにじんでグラデ―ションが出来ることはごく当たり前のこと。ですので、これまでの手ぬぐいの常識にとらわれないような、たくさんの色を使ったり、グラデーションを作ったりして、どんどん作品を増やしていきました。もちろん、これまでとは違うことをやっていましたから、同業他社さんからは「あいつのところは何をやっているんだ」といぶかしがられる反応もあったとは聞いています」

―染め物の中でも「手ぬぐい」に注目して、オリジナルブランドを作ろうとされた理由は何かあったのでしょうか?

「先ほどから申し上げている「注染」という染色法で染めるものは、基本的には手ぬぐいか浴衣のどちらかなんです。手で一枚ずつ糊を塗って重ねていくやり方は、小幅(※)のさらし(※)の木綿と決まっています。長くなればなるほど、その分失敗するリスクも倍増していくことになりますので、面積が多い浴衣よりも、手ぬぐいから始めた方がリスクを避けることにも繋がりました」

※小幅…反物(たんもの)の幅の規格を示す言葉で、約33〜40cmの幅を表す。
※さらし…糸や織物から不純物を取り除いて漂白した状態のもの。

―なるほど。これまでにもお話が出ている「注染」という染め方について、詳しく伺っても良いでしょうか?

「注ぎ染め、と書いて「注染」と読みますが、一度にたくさん染めるために開発された染め方です。そのため、布を上に重ねて立体的に染める、という方法をとります。プリントとは違い、布の片面を染めるのではなく糸から染める特徴があります。上から染料を注ぎ、下から真空ポンプで吸って染料を通していくのですが、染めない部分には糊を塗っています。糊は通常片面しか塗れないため、普通であれば塗っていない方の面には染料が染まっていくはずなのですが、布をぴったりと折り重ねていくことで、両面に糊が付いて必要な箇所だけに色が染まる、という工夫がされています」

―とても繊細な作業ですね!

「糊を塗る作業を「糊置き」と言いますが、きちんと初めに糊が塗れていないと、染める部分にズレが生じてしまうため、一度にたくさんの枚数を染めるはずが、逆に多くの失敗作を生み出してしまうリスクもあるんです。そのため、この作業には熟練された職人の技術が必要とされています。「糊置き」がしっかりとされていれば、染めの職人がレシピに従って正確に染めていきます。染め終わった後は、何十枚も重なった長い生地(24~25m)を水洗し、余分な染料と糊を洗い落とします。最後は高い場所に干して乾燥させる。「糊置き」「注染」「洗い」「伊達干し(だてぼし)」という四つの工程で成り立っています」

―注染の発祥はナカニのある大阪なのでしょうか?

「大阪だと言われています。一度にたくさんの染色が出来る合理的な発想が、商人の街である大阪らしいよね、と言われたりもしますね(笑)大阪、東京、浜松が、国内の注染三大地域とも呼ばれています。と言っても、今や注染のできる工場は全体で二十数件しかありません」

―にじゆらさんのブランド名の由来も、この注染の特徴から付けられたと伺いました。

「初めは多くの方が「にじ=虹」と思われるのですが、実はそうではないんです。にじは「にじむ」のにじなんです。そしてゆらは色の「ゆらぎ」と、手ぬぐいを洗濯竿に干したときに風に吹かれている時の「ゆらぎ」から来ています。にじんだりゆらいだりする、注染の味わい深さや手ぬぐいを想起させる風景を表す言葉として、ブランド名にしています」

―染色の特徴や特性を、個性だと捉えられているような、ポジティブな印象ですね。

「古典柄は古典柄でもちろん素晴らしいのですが、ぼかしを重ねたり、新しい色使いだったりを取り入れることで、日常的に使いやすいデザイン性にも繋がっていて、それがお客様からの支持も得られているのかなと感じています」

―にじゆらの商品を手に取られたお客様からは、どのような反応が多いでしょうか?

「初めて店舗にいらっしゃる方の場合、最初は「手ぬぐいでこの価格はちょっと高いわね」と仰る方もおられるのですが、注染の工程をご説明させていただいたり、奥のスペースでワークショップを体験していただくことで、帰り際には「これで1,600円は安いわね!」と仰っていただけます。手ぬぐいにも色々な商品がありますから、一見するだけでは分かりにくいかもしれませんが、価格に見合うだけの技術や性能がにじゆらの手ぬぐいには染み込んでいるんだということを分かっていただいて、リピーターになっていただいたり、ご友人に発信していただけるケースが多いように思います」

―具体的にどんな魅力や特徴がありますか?

「先述しましたが、注染の特徴として「糸を染める」ということがあげられます。それがどういうことかと言うと、「糸と糸の間が染料で埋まっていない」ということです。つまり、それが通気性の良さであったり、吸水性であったり、速乾性の良さに繋がります。また、洗えば洗うほど生地が柔らかくなって使いやすくなるという特徴もあります。肌触りの良さや使い心地の良さを感じていただいて、ご友人やご家族にギフトとして贈られたりする方もいらっしゃいます」

―注染だからこその機能性や使い心地の良さを感じられるんですね。にじゆらの商品は、デザインの種類がとても豊富なことも素敵だなと思います。

「高い技術が詰まっていますよ、といくら申し上げても、それは作り手側の自己満足であることも承知していますので、先ずは見た目やデザイン性で「私これ好きかも」と感じてもらえるような工夫はしています。様々な分野で活躍されている作家さんのお力をお借りして、オリジナリティの感じられるデザインを描いていただいたり、社内のデザイナーが季節や用途に合わせたデザインを作ってみたりと、組み合わせながらバリエーションをご用意しています」

―常に様々な企画やコンセプトを考えながら、商品開発をされているんですね。

「私たちは注染という伝統技法を使用しますが、同じことしかやらない、というのが伝統ではないと思っています。軸や手法は変わらないけど、デザインであったり、使い勝手であったり、その時代に一番合ったものを生み出していく姿勢が大事だなと。そうして、お客様に長く使っていただけて、愛され続けていくことが本当の伝統だと思うんです」

―その絶妙なバランスが、お客様にも受け入れられているポイントなんだろうなと感じます。最後に、今後の展望をお聞かせください。

「にじゆらというブランドとしては、注染の良さをもっと多くの方に発信していきたいという想いがあります。そして、ナカニという会社としては、手ぬぐいという文化をもっと広げていきたい、その価値のリブランディングをしていきたいという想いがあります。手ぬぐいは、体を拭くというタオルとしての使い方だけでなく、緊急時などはほっかむりや止血などに使えたり、拡げてタペストリーとして飾ることでインテリアにすることもできます。そういう「面白さ」や「便利さ」があるんだなぁということを、私たちが発信し続けていくことで、皆さまに知っていただけたらと思います」

Profile
Brand

昭和41年(1966年)に創業した、大阪府堺市に本拠地を構え、委託加工を行う染色工場「ナカニ」が約11年前に設立した手ぬぐいブランド「にじゆら」。伝統的な染色技法である「注染」は変えることなく、これまでの慣習にとらわれない色鮮やかな配色やデザインを得意とする。季節や用途に合わせたデザイン性は、ギフトとしても喜ばれており、リピーターも多い。

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